COLUMN

 
斉藤 聡 先生 の コラム

都内で41年ぶり「豚熱」確認、研究施設のイノシシが感染し死ぬ…
残る5頭を殺処分

東京都は19日、小平市にある 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の施設で、研究用に飼育されていたイノシシ1頭が家畜伝染病「CSF( 豚熱=豚(とん)コレラ)」に感染していたと発表した。都内での感染確認は1981年以来、41年ぶりという。
 都などによると、17日に別の飼育施設から連れてきたイノシシ6頭のうち1頭が翌18日に死んだ。その後の検査で感染が確認された。残る5頭はいずれも殺処分した。
1121日のニュースより>
【補足説明】 表題からは自然発生した野生イノシシがいたのかは?
日本では2018年に岐阜で豚コレラ(豚熱#CSF)が26年ぶりに見つかり、2022年6月末までに確定診断82頭、150以上の場所で30万頭が殺処分されています。
#旧知の名称豚コレラのコレラという言葉が豚肉への風評被害に当たるとして、政府は病名を豚熱と名称を最近変更している。
上記見出しのように東京でもイノシシの死亡が確認されました。
2022年12月15日まで、北海道で疑似感染個体は見つかっておりませんが、養豚業を営んではなくとも、ペットの豚さんを飼育している飼い主さんには不安なことでしょう。
今後の当院 HP情報や、行政からの指示にご注意ください。
 
           

<農水省のこの資料には説明がないため記号その他意味不明>


 
北海道には野生イノシシがいないため、本州と異なり豚コレラ CSFが常在地になることはありません。また、現在、本州から北海道への豚さんの移入、移動は禁止されていますので感染地になることは基本的にありません。もし発生したならば、関係者が意図的に持ち込んだか、密移入豚によることとなります。本州と異なり偶発的な発生は考えられません。
類似した名称の疾病に アフリカ豚コレラという豚さんの病気がありますが、こちらは日本には今のところ発生はないようです。この疾病はやはりウィルスによるものですが、こちらはダニが関与するので感染経路には最も警戒すべき豚さんの感染症です。
CSFウィルスの性状を以下に記します。
 
豚熱ウイルスの環境中での生残;
・豚の体内 感染後、急速に増殖。翌日からウイルス排泄。
 慢性経過でも死亡までウイルスを排泄 ウイルスは増加する
・豚肉 冷凍肉: 4年、冷蔵肉: 3カ月、 20℃4日、
             加熱肉  65℃30分、 71℃1
・糞尿中 <糞便中> 5℃66日、 20℃5日、 30℃1日     
                <尿中> 5℃20日、 20℃2日、 30℃15日   生存     
 ・環境因子** <温度> 37℃7時間、 90℃1分       
                < pH pH305時間、 pH7050時間(共に 21℃
 
消毒液では、オスバンやビルコンが有効です。ただし、使用する濃度や温度、浸漬時間には注意が必要です。
 
今後の注意:
1.このウィルスは寒冷に強いので、必要以上に屋外に出さない。
2.食肉の豚肉は感染肉ではないと思われるが、生ワクチンの問題もあり、調理時の手などから万一伝播するという危惧があれば、豚や猪肉には直接触れない方がいいかもしれない。手をよく洗ってください。
3.北海道は現在 CSF 清浄地域のため本州に行くことができるが、本州から北海道に豚さんが入る(戻る)ことはできません。
4. CSFワクチンは生ワクチンのため、当院では接種をいたしません。
  今後、拡散蔓延状況から行政によるワクチン接種の指導がある可能性はあります。
5.上記の消毒液は医薬品店などで購入可能ですが、手に入らないときは当院にご連絡ください。濃度や使用法の説明が必要です。
 
 

 
 
【??】
豚コレラ CSFに感染した豚の肉を人間が食べても問題はないそうです(農水省の報告)
実験的にはモルモットとウサギで感染が成立します。
 
 
以上、豚コレラ CSFのお話でした。     
         齊藤 聡 
   2022年12月16日
                          

 

2022年度初級認定講座を実施して 

2022年10月9~10の二日間、第21回WRA初級講座が約三年ぶりに開催されました。COVID19感染拡大により催ものの自粛を受け、ようやく開催できましたことを皆様に感謝申し上げます。
当会会長でおられます元日本獣医師会副会長の金川先生は本年御年90歳を迎えられ、
今回も講演をいただき、楽しくまた威厳のあるお話とかくしゃくとしたそのお姿に、ご年齢を感じさせないと皆さんが驚いておりました。
初級講座では、身近な野鳥の保護法や飼養、放鳥をまた、法律、危険なZOONOSISについて座学を行い、二日目には鳥の体の解剖や保定法、計測や補液の手順などを実習形式で学びました。
今回は本州から3名の方にご参加いただき、遠路足を運んでいただきましてありがとうございました。
今後は中級講座の開催を予定しておりますので、日時内容については開催の公示をお待ちください。
またお会いできることを心待ちにしております。
 
副理事長 齊藤 聡                           


 

COVID-19と野生動物 

この記事では、アメリカCDCの情報をもとに2021年までに分かったことまた、人間や野生動物への脅威についての私信をお伝えいたします。 斉藤 聡
 
 
 
初めて新型コロナウィルス感染症が中国武漢市で発生してから2年2か月(2022年1月執筆)が経過し、世界の多分野の科学者はこの感染症がキクガシラコウモリ科由来であると考えています。どのようにしてコウモリのウィルスが人に於いて世界にパンデミックを引き起こしたのか憶測が飛び交っています。真相究明に及び腰な WHOはもはやあてにならないでしょう。
しかし現在までにワクチンが開発され、予防策が目覚ましい速さで進み、いったん小康状態になりましたが、 RNAウィルスの特徴である変異の速さは想像以上で、現在は、オミクロン株が発現し再び感染者は急速に増加中です。
今、生物学者にとって懸念されることはこのウィルスが人から動物に感染する変異が起こるか、また動物間でさらに変異が起こって様々な動物間での感染の環が起こらないかです。多くの動物種間で相互の変異が起こると、もう収集はつかなくなるでしょう。私は COVID-19から動物の安全を確保し、さらなる変異から人を守るには何が必要かを模索しています。
 
COVID-19のウィルスが宿主細胞に感染するためには、ウィルスのスパイクタンパク質が細胞表面上の ACE2受容体に結合することから始まります。生物の細胞内の ACE2の配列から、このウィルスがどんな動物に感染し易いかを推測することができました。
米国の研究者は50種類以上の生物から、大型ネコ科、ミンク、イタチ、カワウソ、サル類、シカ類が重要な危険を持っている可能性が高いと報告しています。
現在世界中で、 COVID-19が検出された動物は上記のほかに、愛玩動物のハムスター、イヌ、ネコ、フェレットがいます。これらの動物たちの多くは感染後に明確な臨床症状を出さずに生存し、10~20日後にはウィルス抗原は陰性化します。その後抗体は陽性化し結果的に不顕性感染したこととなります。このことは感染した動物たちに被害が少ないということの反面、感染直後には症状のないままウィルスが増殖・排出がされることを意味しています。
COVID-19がもし異なる生物間に広がると、新たな変異や獲得形質を持ち、それにより新しい株のウィルスとなるのです。その株の感染力が強くなるのか、重症化するのか、感染動物にどのような後遺症を引き起こすのかは全く予測がつきません。
 

 
今現在進行中の治療薬やワクチンが効果のないものになる可能性もあるのです。
これを防ぐには、生物同士とウィルスの関係に注視する必要度が極めて高いのです。無症状と思われる動物と感染者は密接な環境にいるべきではありません。また、ペット以外の生物のいる施設では飼育者や飼育員はより慎重に行動すべきです。 EUROPEではミンクの飼育場で数千万頭がと殺処分にされました。
それでもウィルスは簡単に駆逐することはできません。今後、さらに動物から新たな変異株が出てこないことを祈ります。
 

                         
また、行政が動物の RT-PCR検査を制約していることや、検査機関が検体を受け付けないことにより検査ができず、臨床上、素早くウィルスの動向をつかむことが現在できません。気づいた時には手遅れになることも考えなくてはならないのです。 CDCWHOの見解に流されず研究者は相互の情報をオープンにし、協力体制を持つべきだと思います。日本国内で動物の RT-PCR検査が基本的にできることを望みます。それは生物の治療をする獣医師や看護師が無防備なこと、また動物が助けられるために我々が無力にならないことなのです。
2022年1月23日 斉藤 聡
                                      

 

南アフリカ ヨハネスブルグ 
動物園のライオンのCOVID-19感染 2022年1月

Members of the veterinary team of University of Pretoria
taking samples from a lion that contracted the coronavirus
from its handlers at a zoo in Johannesburg.
Credit...Marietjie Venter NY Timesより

  2020年7月。南アフリカの個人経営の動物園で二頭のピューマが、食欲不振、下痢、鼻汁、継続的な発咳が認められ、その後1か月以内に回復しました。
 その一年後、再び同動物園で3頭のアフリカライオンが同様の症状を示し、高齢のメスは肺炎を併発しました。関係する飼育員もCOVID-19陽性でした。
 この後、ライオンと飼育員は同じ塩基配列のウィルスであることがわかりました。ライオンは一か月以内に回復しましたが3週間以上PCR検査は陽性でした。状況から人間が持ち込んだウィルスによりライオンが感染したと考えられています。園から保護区内にはライオンは出ていないようです。  
  この症例に携わる科学者は、このウィルスが野生保護区の動物に広がれば大変な危機になると警告しています。
 筆者は、COVID-19が野生のコウモリのウィルスに由来し、中国から人の感染が一気に広まった後、短期間で変異が起こり、現在の人でのパンデミックに至っている事実から、人に感染したウィルスの変異株がまた再び動物に戻り、さらに反復的して人に返ってくるというシナリオを考えずにいられません。
 また、以前から存在する動物のコロナウィルス(COVID-19ではない)のように、治療が難しい風土病のような潜在的感染症になることを恐れています。
 感染症の治療は治療法がある細菌、原虫、寄生虫、リケッチアもありますが、ウィルスは最も治療の困難なものです。忍者のように隠れ、姿を変えることができさらに、殺傷能力が高いこともあるのです。地球誕生以来、生物の進化にウィルスの役割は大きな存在でした。そして、同時に人間のみがウィルスに安全な存在ではないことを歴史は示しています。現在日本では、COVID-19の感染拡大に楽観的な意見や、行政の対応がありますが、一昨年のシャットダウンの時、南米からギリギリ帰ってこれた日本人の私には、世界で起こっている大変な出来事が今も悪夢のように思えてなりません。  
                           
                     2022年1月21日   斉藤 聡 
 

高病原性鳥インフルエンザ情報 201611月

2016年は年度初頭より、鳥インフルエンザの人間への感染が世界各地で報告されております。アフリカ、ヨーロッパ、東南アジア、China中国、オーストラリアで高病原性といわれるH5とH7血清型タイプの人の患者の死亡が確認されています。
H5血清タイプでは死亡が60%とアメリカCDCにより警告されています。
しかし、低病原性といわれるH9血清型でもChina中国では複数の重体患者の報告がありその後回復したかどうかは不明です。
鳥インフルエンザ ウイルスは、世界の 100 以上の異なる種の野鳥から分離されています。高病原性が、分離されたウイルスの大半は低病原性鳥インフルエンザ A ウイルスをされています。
カモメ、アジサシ、シギ ・ちどり類、カモなどの水鳥、ガチョウおよびハクチョウは、鳥インフルエンザ ウイルスの潜在宿主と見なされます。
昨年度から、北米でカモ類の野鳥とアヒルの家禽の間で、H5血清型の鳥インフルエンザウィルスが大規模流行し、2016年でもアラスカのmallard duckカモで発生が確認されていました。
日本では秋になり渡り鳥が南北から飛来します。私は先の情報をもとに今年の秋の鳥インフルエンザの発生に警鐘を鳴らしていました。そして先週、新潟県と青森県では養鶏場などで飼育されているニワトリやアヒルの死体から鳥インフルエンザウイルスH5血清型が検出され、50万羽以上の処分が行われることになりました。
野鳥の侵入を防ぐことは困難で、集団に感染が広がれば、養鶏農家などに多大な被害が出ます。また、アジアやヨーロッパでは飼育場の人にも死亡患者が報告されています。
従来、鳥インフルエンザは人に感染しないとされ、ヒトインフルエンザと区別されていました。このウィルスは野鳥の体内では病気を引き起こしません。ところが何らかの変異を遂げたこのウィルスは、鳥類に対して高い病原性を獲得し「H5型」や「H7型」と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスになりました。そして、今では鳥から人へ感染し、さらに人から人へ感染する可能性をWHOでは警告しています。
日本での流行はウィルスを体内にもつ渡り鳥が、シベリアから北海道を経由し南下するルート、極東ロシアから日本海を横断して東進するルート、中国大陸から朝鮮半島を経由するルートの三つのルートをとって入り、日本の湿原などにて排便をした際にフン中のウイルスが拡散し、留鳥や家禽に感染すると考えられます。
留鳥のスズメに感染した結果、スズメが養鶏場に侵入することで感受性の高いニワトリが大量感染した疑いがもたれています。
また、感染したニワトリの死骸を食べたカラスが死亡した例があります。
感染する鳥として環境省は、
・カモ科 ・タカ科 ・ツル科  ・フクロウ科  ・カモメ科  ・ウ科
・サギ科 などをリスク種として挙げています。これは単に発見する可能性が高いという意味で、感受性が高いということではないと思われます。
 

HPAI_watariroute.pdf
 

 
 
現在、複数の個所から複数の感染が確認され、環境省は対応レベル3とし、国のマニュアルでは、高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出された養鶏場から半径3キロ以内の養鶏場にニワトリや卵の移動を禁止するとともに、3キロから10キロの範囲にある養鶏場に対しては域外への出荷などを禁止する対策を行うことになっています。
会員の皆様へ
・もし、屋外で野鳥の死骸を発見した場合には鳥には触れず、その地の役場に連絡してください。 主に家畜保健所にてウィルスの検査を実施します。高病原性鳥インフルエンザは法定伝染病であるので、国の機関は24時間対応で直ちに所定の検査や防除を行う義務があります。
・もし集団で弱っている鳥や死骸を発見した場合には、鳥インフルエンザの可能性が高いと考え、周囲の鳥を探したりせず直ちにその場を離れ役場などに連絡してください。野鳥は警察の管轄外ですので間違えませんように。
・野鳥での発症データは不明ですが、ヒトでは発症前の1日から7日前に感染したと考えられ、感染後3から7日で発病するといわれています。野鳥でも同様な期間と考えてください。
・対応をよくわかっていない役場では、袋に入れて持ってきてなどというかもしれませんが、それは危険ですので当該役所に対応してもらってください。感染鳥を移動した場合、また、足を踏み入れたことにより汚染場所が広がる可能性があります。
・当院でも簡易キット検査はできますが、緊急用ですので対応いたしておりません。
・ペットの鳥は屋外の鳥と接しない限り、感染することはありません。
・万一、感染した鳥を食べた場合でも70度以上に加熱していれば感染することはありません。風評被害になりませんように。
               
               石山通リ動物病院   斉藤 聡

 
浅川 満彦 先生 の コラム

  野生動物医学センターは無くなりましたが・・・

  

 
 前回コラムは 20222月出稿でしたので、 約1年10か月ぶりの再登場となります。僅か 22か月でしたが、僕にも、また、その周りにも、実に様々なことがありました。まず、そこでお話しした野生動物医学センター( WRA初級認講座の実習で用いた施設;以下、 WAMC)ですが、今は完全に閉鎖され、退去した建屋に保護された犬猫がいると思います。閉鎖に関する当局との「攻防戦」(=激しい話し合い。いや、勝ち目がない防戦)は、メンタル的に非常に辛く、不眠状態や頭痛などに苦しめられました。そして、後の黄金週間直後(2022年5月)、人生で初めて心療内科へ通院しました。自身が案外脆いことを知ったことは、ある意味、貴重な経験であったのだと振り返る程度には、現在、回復しておりますので、ご安心ください(笑)。
 
 さて、(こちらもコラムで紹介しましたが) WAMCにおける法獣医学的研究をまとめた拙著『野生動物の法獣医学』地人書館/に着想を得、『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』  ©浅山わかび/小学館という漫画作品が、現在も順調に連載されています。現在、単行本が 6巻まで刊行され、もうすぐ 7巻が出ます。これらも、是非、ご覧になって頂きましたら幸いです。ちなみに、この夏、KADOKAWA(旧角川書店)等主催「次にくるマンガ大賞 2023」でコミックス部門 5170作品中19位となり、それなりに読まれてはいるようで、安堵しております。そして、皆さまにはお礼を申し上げます。
 
 ところで、「法獣医学」という日本語ですが、実は、明治時代に存在していました。偉そうに「法獣医学」の書籍を世に送っておきながら、そこで明治の「法獣医学」に触れていなかったことに、心が辛くなりました。ちょうど、僕が心療内科に通院していた頃で(前述)、この欠落の事実は、よりをしんどくさせてくれました。
また、拙著に対する匿名読者さまの感想に「娘の漫画の方が面白い」という webの書き込みも、喜んでいいのかどうかわからない、変な気持ちにさせました。が、それはともかく「動物の死因から自殺を最初から除外するのは納得できない」といったコメントは、しっかり回答しないとならないでしょう。
 
 さらに、コメントでは「動物愛護法は飼育(鳥獣は当然)爬虫類まで保護されるのに、なぜ、カエルや魚は対象外なのか」と言った疑問もあり、当惑しました(拙著ではまったく触れていませんでした;汗)。
困りつつも、刺激になりました。やはり、著作を出すのは、勉強になります。このようなことから(?)、お陰さまで、『野生動物の法獣医学』は 3版まで出ましたが(でも、どうせ、娘の漫画には、到底、及びませんけどね;泣)、だからといって、改訂版が出るものではないようです。
そこで、「もし、改訂版になるのなら」と想定しつつ、かつ、この分野に関心を持ってくれたゼミ生の卒論を兼ね、補足資料を刊行しました。先ほどの、明治時代の法獣医学、動物の自殺、鳥獣・爬虫類以外の動物の愛護・福祉などについて論考しております。酪農学園大学紀要という無料の雑誌で、次の URLにて公開中。是非、ご覧下さい。 https://rakuno.repo.nii.ac.jp/records/2000039
 
 さて、拙著にせよ漫画にせよ、物語の舞台となった WAMCは消えましたが、消え去る前にこの施設が果たした科学的な役割を WAMCからの刊行物( 1,000本以上)を総括・分析しました。捲土重来、再興を目指すためでもあります。こちらも紀要で公開されています(こちらも、小綿という学生さんの卒論)。次の URLでお読み下されば嬉しいです。 https://rakuno.repo.nii.ac.jp/records/2000041
今回、現在、ご覧になられている HPの実質的運営担当者である本 WRA事務局の田嶋様からのお誘いを受け投稿させて頂きました。田嶋様のWRA事務局ご退任直前の最後の仕事になると思います(田嶋さん、感謝致します!)。このコラム拙稿が、多くの皆さんご覧頂き、有終の美を飾って頂ければ望外の喜び。
 
 
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類 医動物学ユニット /元野生動物医学センター
2023年 12

  連載中『ラストカルテー法獣医学者 当麻健匠の記憶ー(作 浅山わびか)』での救護・リハビリ事例紹介

  

『ラストカルテ-
法獣医学者 当麻健匠の記憶-』
©浅山わかび/小学館


 前回のコラムで、拙著『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』(地人書館)紹介の中で、この内容に着想を得た作品が週刊少年サンデー (小学館 )『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』で連載されることを予告しました。現在、 5話までが出ましたが、いずれの作品でも、酪農学園大学野生動物医学センターで行われた救護・リハビリ活動と直接・間接的に関わっております。 WRA初級講座の実習で使われた施設ですので、その姿を彷彿とさせる背景も懐かしんで下されば幸いです。
 
 さて、その施設ですが、 2004年、附属動物病院構内に文科省競争予算で付置されました。付置直後から、傷ついた個体ばかりか、死因解析の依頼も多数持ち込まれました。ところが、長期間野外に放置されたそれらは、著しく変性、腐敗していく途上にあります。こういった死体の死因解析は、従来の獣医学で埒外。法医学のような犯罪科学のような分野が存在しなかったからです。一方、野生動物医学、特に、寄生虫病を含む感染症研究の材料である死体は、質にやや難ありであっても、研究では十分使えます。つまり、死体は「宝の山」。この「宝」を頂くために死因解析を断ることは出来なかったのです。
 
 仕方なく、野生動物の法獣医学を手探りで立ち上げたお話しは、拙著で語り、それをネタにした前述の漫画で語られていますが、こういった死体をもとに、野生動物のバイオリスクを可視化していきました。獣医学は、何となく、齋藤先生のようなバリバリの臨床家のための科学と思われますが、このようなワンヘルスの最前線にある分野でもあります。
 
 ですが、これが「災い」し、その施設が、獣医学のグルーバルスタンダード(国際標準化)では、ネックとなってしまいました。すなわち、付置されている場所がヒトやモノが移動する動線上、望ましくないとなったのです。そのため、 20222月、その移転(事実上の閉鎖)が決定され、現在、その作業が進行中です。リハビリテーターの多くにとっても、学びの場でしたが、次回からは今までのような形では使用が出来ません。
 
少々残念なお知らせになりましたが、どうか、『ラストカルテ』(ついでにこのコラムでも紹介させて頂いた拙著)をお読みになり、偲んで下されば幸いです。お陰様でこの作品は好評で、早くも来月 317日にはコミック本として発行されますので、どうか、ご覧下さい。現在、 4話まで無料で公開されていますので( 2022219日現在)、試し読みは こちらで
 
 
『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』 ©浅山わかび/小学館の単行本については以下ご参照。
  少年サンデーコミックス
 
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類 医動物学ユニット/野生動物医学センター
2022年2月

 

 『野生動物の法獣医学―もの言わぬ死体の叫び』出版について

         
 

『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』
(地人書館, 2021年12月28日発売,
四六判縦, 256 pp, 定価 1,800円+税)


皆さん、新年となりました。コロナ・オミクロン株により憂鬱な年明けです。初級の研修もどのような形になるのか不透明です。さて、その研修で用いた死体ですが、通常、法的には「生ごみ」です。しかし、大量死には感染症や中毒死の可能性が示唆され、あるいは、動物虐待が疑われる場合もありました。近年、コロナのように人獣共通感染症をはじめ、動物が関係する案件が増加しており、死因を解明することの重要性は日に日に増しています。皆さんが研修をした野生動物医学センターでは様々な動物の剖検記録を積み重ねてきましたが、その内容を判りやすい形で著したのが本書です。リハビリテーターとしてはもちろん、一般市民も知って欲しい情報が満載です(参考に末尾に目次を掲載します)。
 なお、この本のエピソードのいくつかは、東京都在住の漫画家・浅山わかび(この本のカバーも前著『野生動物医学への挑戦』に引き続き描いてくれました)が少年サンデー(小学館)で『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』が連載予定です。連載は2022年8号(1月19日発売)からですので、そちらも併せてご覧下さい。
 
 
 

『ラストカルテ
-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』
©浅山わかび/小学館


<  目   次 >
はじめに
第1章 なぜ牛大学に野鳥が来る?
鶏の病気がコトの発端/寄生虫を運ぶ袋、野生動物/ワンヘルスと獣医学、そして野生動物医学/そして、不審死体もやって来た ……
第2章 どのような死があるのだろう?
自然現象としての死/人為的原因による死/だが、実際は ……
第3章 身近な鳥類の大量死はなぜ起こる?
宙に浮く〈塩辛・スルメ〉状死体/獣医病理学のスタンス/道内の野生動物死因解析は ……/死体をもらっただけなのに ……/まず、受け入れ、それから悩む/餌付けは動物にとってマイナス?/鉛散弾と紛らわしい BB弾/誤った正義感からの毒殺/血液も引力の影響を受ける/救命のため学ぶ毒/生き物の「大樹」で、いったん、整理/頭の失い方で、頭をひねる/珍しい野鳥搬入で雀躍/なりは小さくても、雄弁に語る、語らせる/まず、野鳥の体を測ろう/理不尽な仲間外れは否定/色彩を正しく記録する/森と隣接する建物は配慮が必要/網戸にもぶつかる/死体を目の前に鳥談義/鳥好き子供からの口頭試問/路上死体は交通事故死?/市のシンボルが庭先で散乱
第4章 人間活動が不運な死をもたらす
夜間照明は死の罠/人工的な色素が付着した ……/餌じゃないの !?/魚を採る網に、魚を食べる鳥も採られる/人の都合で事案は起きない/しかし、何と言ってもやる気/鳥も釣られる延縄/重油塗れ鳥 油で死んだ? それとも死後付着?/死体流出と大量死の経緯を想像する/油汚染による個体への影響/海鳥の特異的な形態も仇に/より深刻な個体群への影響/さらには個体 vs個体群問題に波及/風力発電の風車への衝突/天候異変は浄水場の罠に誘う/輸入家畜飼料に紛れる野鳥/関連事例の紹介と今後
第5章 哺乳類と爬虫類の剖検は命がけ
事案と場所の組み合わせ/路外でも交通事故死/死ぬまでの過程/体毛鑑定/シカ死体は何かとトリッキー/検査に適切な材料とは/シカの剖検では感染症に注意/キツネとタヌキの死体も感染リスクに要注意/感染防止面で心得るべきこと/ついには猫もやってきた/法獣医骨学の恐怖/可哀そうでも洗わないで!/過去からの叫び/猫と言えば鼠/家鼠と溺死/トガリネズミも体育館で遊ぶ?/クジラ類の死体までやってくる/知床のシャチ/蛇にもほんの少しの慈愛を
第6章 野生動物の法獣医学とは?
獣医学とは/既存知識の延長・目新しい組合せなので独習可能/愛護動物とは? 動愛法とは?/愛護動物を対象にした法獣医学の試み/その他飼育動物を対象にした試みと無脊椎動物医学/鳥獣保護管理法とは?/その他の野生動物を対象にした法規/では、野生動物を対象にした法獣医学は?/動物虐待阻止の実学シェルター医学と法獣医学/野生動物の法獣医学と医学(法医学)/野生動物の法獣医学と野生動物医学/シェルター医学の法獣医学との違い/狭義・広義の法獣医学
おわりに
参考文献 
  地人書館ホームページ
少年サンデーホームページ
浅山わかび Twitter へ
野生動物医学センター公式フェースブック
 
 
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類 医動物学ユニット/野生動物医学センター
2022年1月

2021.06.06

『野生動物医学への挑戦―野生動物医学への挑戦―寄生虫・感染症・ワンヘルス』出版について 

         
 

『野生動物医学への挑戦―野生動物医学への挑戦―寄生虫・感染症・ワンヘルス
(東京大学出版会, 202164日発売,A5 196pp, 定価2900+税) 

 
皆さん、お元気でしょうか。コロナ禍の影響で、初級の研修が 2年間も中止となり、寂しいです。さて、その研修、特に、実習に参加された皆さんの多くから、「野生動物医学センターとはどのような活動をしているのか」という質問を頂きました。当日はバタバタしており、十分答えていなかったと思います。
その代わり、表題の拙著がその答えをしております。本書は「私は寄生虫学および寄生虫病学を専門にするが、その研究者人生の半ばで野生動物医学という別の学問を兼任(中略)感染症全般と関り、結局、野生動物医学が獣医学あるいは生物科学の中で、どのような位置付けにあるのかを模索しつつ、この分野を根付かせることに挑戦(後略)」(<はじめに>より)した記録です。その過程で、野生動物の救護や保護(意味が違います!)、この施設の活動の様子、関連分野で働く人々などに言及しましたた。自粛生活が続きますが、どうか、自習資料としてお読み下さればと思います。以下に章題とその節を列挙します。
1章 寄生虫はどこからきたか
1.1 寄生虫学事始め  1.2 研究の方向性を決める  1.3 宿主-寄生体関係の生物地理
2章 野生動物学を教える
2.1
 獣医学領域の野生動物  2.2 野生動物医学とは  2.3 より高みを目指す野生動物医学のために
3章 野生動物に感染する
3.1
 病原体と感染症  3.2 ウイルスによる疾病  3.3 細菌・真菌による疾病  3.4 野生動物の死因はなにか
4章 鳥類と寄生虫
4.1
 鳥独特の寄生虫病  4.2 原虫・蠕虫による疾病  4.3 節足動物による疾病
5章 野生動物と病原体の曼荼羅
5.1
 外来種介在によるいびつな関係  5.2 多様化する衛生動物  5.3 感染症研究の縦割りは世界を滅ぼす
6章 次世代へいかにバトンを渡すか
6.1
 まず,働かないと……  6.2 研究と啓発の両輪で  6.3 今後に望むこと
3章から 4章については、本協会の中級講座でも少し扱っています。救護活動では、いまや、感染症や寄生虫病を無視出来ませんからね。参考文献表も完備しており、もし、より深く独習を望む場合のサポートをしています。
 
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ちなみに、本書表紙カバーは、それまでお堅い書籍を出していた東大さんらしからぬ漫画のようなタッチとなっています。思い出して頂けましたか。この室内の様子は、皆さんの実習で使われた野生動物医学センターの内部に着想されたものです。描いた作家は浅山わかびという『週刊少年サンデー・洗脳執事』などを連載した漫画作家で、実は、私の娘です。この子が生まれた 1994年に、私は野生動物医学の担当となったので、これも何かの縁なのでしょうか。
 
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浅川 満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類医動物学ユニット/野生動物医学センター
2021年6月    

 動物看護学の最新解説が刊行されました

         
 

『生物科学』(農文協)で動物看護学特集が刊行されました。WRA会員の皆様にも関心のある方が多いと思われますので紹介させていただきます。


 浅川はこの雑誌の副委員長で、しかも、2017年から3年間、動物看護学の学類に出向しているので、企画をしました。幸い、優れた著者陣に恵まれ素晴らしい内容となりました。
 動物看護学系の大学は国内に9つあり(専修学校は70以上)、今、体系化された教育課程が準備されつつあります。また、動物看護学が独立した科学たり得るのは、固有な研究が包含されるからです。大学とは研究を基盤に教育をする場ですから、動物看護学は、飼い主や動物と関わる様々な人・社会と向き合う実践科学です。これが、病気で手一杯となっている獣医学と異なった、特色の一つと思います。実は、この側面は野生動物救護活動でも通ずるものがあります。この機会に、是非、ご注文下さい。

 

 
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浅川満彦 
酪農学園大学獣医学群獣医看護学類獣医寄生虫研究室
2018年4月

   

 
金川先生 の コラム

 
 

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