REHABILI REPORT
リハビリレポート No.1
天塩町の河瀬さんからのリハビリ中の幼鳥と無事放鳥できたエゾフクロウのリハビリ報告を紹介します。
窓から外を覗いている様子
幼鳥
平成23年4月22日早朝、天塩町市街地の町道脇で蹲っているところを新聞配達のオジサンに拾われました。 この子は、自宅隣の無線赤十字奉仕団事務所で保護しています。林(国有林)が直ぐ近くですから、毎日様々な野鳥類がインコの残餌給餌台にやってきます。
朝露に濡れて汚れていましたが、骨折等はしていない様でした。
保温・給水のあとで餌としてワームとインコ用のヒエ・アワを与えました。暫くはワームもヒエも食していましたが、2週間ほど経過してからは、ワームは殆ど食べなくなり、インコ・カナリヤ用の餌とレタスばかりを好むようになってしまいました。勿論ワームも与えていましたが、籠の外に放り投げるようになってしまったので、それ以降ワームは与えないことにしました。
6月に入ってからは、リハビリを兼ねて事務所内を自由に飛び廻ることが出来るよう籠の扉を開けていますが、時折開けた事務所の窓から外に飛び出しては行きますが、何故か事務所に戻ってきます。
渡りの時期も過ぎてしまいましたので、来春の放鳥を目指し人馴れしないようリハビリを続けます。
果たしてこの子は何でしょう
後姿はこんな感じです。
エゾフクロウ
平成23年10月7日午前9時30分頃、天塩町郊外の牧場に設置している鹿除けネットに絡まっているところを保護されました。
ダンボール箱に押込まれ小さく見えましたが、翼長は130cm程ありました。帰宅して大型鳥用のゲージに移し、水を与え鶏肉とマグロの切身を与えましたら、夜の間に結構食べたようでした。
翌朝、自宅に居るオウム(ソロモンオウム・2歳7ケ月)と窓越しにご対面させたところ、どちらも警戒心丸出しで「威嚇ごっこ」でした。この動作の中でフクロウの眼・翼・脚・爪などの状態を確認しました。結果は、目立った外傷や身体の何処かを庇うような仕草は全く見られませんでしたので、早期の放鳥を計画し、天気の安定していた9日夕方にそばの国有林へ放鳥しました。
我家には、毎年猛禽類(主にフクロウ・アオバズク)が運ばれてきますので、夏場はスーパーハウス内でリハビリをしています。時々車庫に出没する野ネズミを籠で捕まえて餌にしますが、今回はその必要もありませんでした。(冬季間は無線赤十字奉仕団事務所内でリハビリです。
放鳥前のエゾフクロウ
放鳥後こちらを見下ろしている様子
COLUMN
斉藤 聡 先生 の コラム
南アフリカ ヨハネスブルグ
動物園のライオンのCOVID-19感染 2022年1月
Members of the veterinary team of University of Pretoria
taking samples from a lion that contracted the coronavirus
from its handlers at a zoo in Johannesburg.
Credit...Marietjie Venter NY Timesより
その一年後、再び同動物園で3頭のアフリカライオンが同様の症状を示し、高齢のメスは肺炎を併発しました。関係する飼育員もCOVID-19陽性でした。
この後、ライオンと飼育員は同じ塩基配列のウィルスであることがわかりました。ライオンは一か月以内に回復しましたが3週間以上PCR検査は陽性でした。状況から人間が持ち込んだウィルスによりライオンが感染したと考えられています。園から保護区内にはライオンは出ていないようです。
この症例に携わる科学者は、このウィルスが野生保護区の動物に広がれば大変な危機になると警告しています。
筆者は、COVID-19が野生のコウモリのウィルスに由来し、中国から人の感染が一気に広まった後、短期間で変異が起こり、現在の人でのパンデミックに至っている事実から、人に感染したウィルスの変異株がまた再び動物に戻り、さらに反復的して人に返ってくるというシナリオを考えずにいられません。
また、以前から存在する動物のコロナウィルス(COVID-19ではない)のように、治療が難しい風土病のような潜在的感染症になることを恐れています。
感染症の治療は治療法がある細菌、原虫、寄生虫、リケッチアもありますが、ウィルスは最も治療の困難なものです。忍者のように隠れ、姿を変えることができさらに、殺傷能力が高いこともあるのです。地球誕生以来、生物の進化にウィルスの役割は大きな存在でした。そして、同時に人間のみがウィルスに安全な存在ではないことを歴史は示しています。現在日本では、COVID-19の感染拡大に楽観的な意見や、行政の対応がありますが、一昨年のシャットダウンの時、南米からギリギリ帰ってこれた日本人の私には、世界で起こっている大変な出来事が今も悪夢のように思えてなりません。
高病原性鳥インフルエンザ情報 2016年11月
H5血清タイプでは死亡が60%とアメリカCDCにより警告されています。
しかし、低病原性といわれるH9血清型でもChina中国では複数の重体患者の報告がありその後回復したかどうかは不明です。
鳥インフルエンザ ウイルスは、世界の 100 以上の異なる種の野鳥から分離されています。高病原性が、分離されたウイルスの大半は低病原性鳥インフルエンザ A ウイルスをされています。
カモメ、アジサシ、シギ ・ちどり類、カモなどの水鳥、ガチョウおよびハクチョウは、鳥インフルエンザ ウイルスの潜在宿主と見なされます。
昨年度から、北米でカモ類の野鳥とアヒルの家禽の間で、H5血清型の鳥インフルエンザウィルスが大規模流行し、2016年でもアラスカのmallard duckカモで発生が確認されていました。
日本では秋になり渡り鳥が南北から飛来します。私は先の情報をもとに今年の秋の鳥インフルエンザの発生に警鐘を鳴らしていました。そして先週、新潟県と青森県では養鶏場などで飼育されているニワトリやアヒルの死体から鳥インフルエンザウイルスH5血清型が検出され、50万羽以上の処分が行われることになりました。
野鳥の侵入を防ぐことは困難で、集団に感染が広がれば、養鶏農家などに多大な被害が出ます。また、アジアやヨーロッパでは飼育場の人にも死亡患者が報告されています。
従来、鳥インフルエンザは人に感染しないとされ、ヒトインフルエンザと区別されていました。このウィルスは野鳥の体内では病気を引き起こしません。ところが何らかの変異を遂げたこのウィルスは、鳥類に対して高い病原性を獲得し「H5型」や「H7型」と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスになりました。そして、今では鳥から人へ感染し、さらに人から人へ感染する可能性をWHOでは警告しています。
日本での流行はウィルスを体内にもつ渡り鳥が、シベリアから北海道を経由し南下するルート、極東ロシアから日本海を横断して東進するルート、中国大陸から朝鮮半島を経由するルートの三つのルートをとって入り、日本の湿原などにて排便をした際にフン中のウイルスが拡散し、留鳥や家禽に感染すると考えられます。
留鳥のスズメに感染した結果、スズメが養鶏場に侵入することで感受性の高いニワトリが大量感染した疑いがもたれています。
また、感染したニワトリの死骸を食べたカラスが死亡した例があります。
感染する鳥として環境省は、
・カモ科 ・タカ科 ・ツル科 ・フクロウ科 ・カモメ科 ・ウ科
・サギ科 などをリスク種として挙げています。これは単に発見する可能性が高いという意味で、感受性が高いということではないと思われます。
HPAI_watariroute.pdf
現在、複数の個所から複数の感染が確認され、環境省は対応レベル3とし、国のマニュアルでは、高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出された養鶏場から半径3キロ以内の養鶏場にニワトリや卵の移動を禁止するとともに、3キロから10キロの範囲にある養鶏場に対しては域外への出荷などを禁止する対策を行うことになっています。
会員の皆様へ
・もし、屋外で野鳥の死骸を発見した場合には鳥には触れず、その地の役場に連絡してください。 主に家畜保健所にてウィルスの検査を実施します。高病原性鳥インフルエンザは法定伝染病であるので、国の機関は24時間対応で直ちに所定の検査や防除を行う義務があります。
・もし集団で弱っている鳥や死骸を発見した場合には、鳥インフルエンザの可能性が高いと考え、周囲の鳥を探したりせず直ちにその場を離れ役場などに連絡してください。野鳥は警察の管轄外ですので間違えませんように。
・野鳥での発症データは不明ですが、ヒトでは発症前の1日から7日前に感染したと考えられ、感染後3から7日で発病するといわれています。野鳥でも同様な期間と考えてください。
・対応をよくわかっていない役場では、袋に入れて持ってきてなどというかもしれませんが、それは危険ですので当該役所に対応してもらってください。感染鳥を移動した場合、また、足を踏み入れたことにより汚染場所が広がる可能性があります。
・当院でも簡易キット検査はできますが、緊急用ですので対応いたしておりません。
・ペットの鳥は屋外の鳥と接しない限り、感染することはありません。
・万一、感染した鳥を食べた場合でも70度以上に加熱していれば感染することはありません。風評被害になりませんように。
石山通リ動物病院 斉藤 聡
浅川 満彦 先生 の コラム
『野生動物の法獣医学―もの言わぬ死体の叫び』出版について
『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』
(地人書館, 2021年12月28日発売, 四六判縦,
256 pp, 定価 1,800円+税)
皆さん、新年となりました。コロナ・オミクロン株により憂鬱な年明けです。初級の研修もどのような形になるのか不透明です。さて、その研修で用いた死体ですが、通常、法的には「生ごみ」です。しかし、大量死には感染症や中毒死の可能性が示唆され、あるいは、動物虐待が疑われる場合もありました。近年、コロナのように人獣共通感染症をはじめ、動物が関係する案件が増加しており、死因を解明することの重要性は日に日に増しています。皆さんが研修をした野生動物医学センターでは様々な動物の剖検記録を積み重ねてきましたが、その内容を判りやすい形で著したのが本書です。リハビリテーターとしてはもちろん、一般市民も知って欲しい情報が満載です(参考に末尾に目次を掲載します)。
なお、この本のエピソードのいくつかは、東京都在住の漫画家・浅山わかび(この本のカバーも前著『野生動物医学への挑戦』に引き続き描いてくれました)が少年サンデー(小学館)で『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』が連載予定です。連載は2022年8号(1月19日発売)からですので、そちらも併せてご覧下さい。
『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』
©浅山わかび/小学館
< 目 次 >
はじめに
第1章 なぜ牛大学に野鳥が来る?
鶏の病気がコトの発端/寄生虫を運ぶ袋、野生動物/ワンヘルスと獣医学、そして野生動物医学/そして、不審死体もやって来た ……
第2章 どのような死があるのだろう?
自然現象としての死/人為的原因による死/だが、実際は ……
第3章 身近な鳥類の大量死はなぜ起こる?
宙に浮く〈塩辛・スルメ〉状死体/獣医病理学のスタンス/道内の野生動物死因解析は ……/死体をもらっただけなのに ……/まず、受け入れ、それから悩む/餌付けは動物にとってマイナス?/鉛散弾と紛らわしい BB弾/誤った正義感からの毒殺/血液も引力の影響を受ける/救命のため学ぶ毒/生き物の「大樹」で、いったん、整理/頭の失い方で、頭をひねる/珍しい野鳥搬入で雀躍/なりは小さくても、雄弁に語る、語らせる/まず、野鳥の体を測ろう/理不尽な仲間外れは否定/色彩を正しく記録する/森と隣接する建物は配慮が必要/網戸にもぶつかる/死体を目の前に鳥談義/鳥好き子供からの口頭試問/路上死体は交通事故死?/市のシンボルが庭先で散乱
第4章 人間活動が不運な死をもたらす
夜間照明は死の罠/人工的な色素が付着した ……/餌じゃないの !?/魚を採る網に、魚を食べる鳥も採られる/人の都合で事案は起きない/しかし、何と言ってもやる気/鳥も釣られる延縄/重油塗れ鳥 ―油で死んだ? それとも死後付着?/死体流出と大量死の経緯を想像する/油汚染による個体への影響/海鳥の特異的な形態も仇に/より深刻な個体群への影響/さらには個体 vs個体群問題に波及/風力発電の風車への衝突/天候異変は浄水場の罠に誘う/輸入家畜飼料に紛れる野鳥/関連事例の紹介と今後
第5章 哺乳類と爬虫類の剖検は命がけ
事案と場所の組み合わせ/路外でも交通事故死/死ぬまでの過程/体毛鑑定/シカ死体は何かとトリッキー/検査に適切な材料とは/シカの剖検では感染症に注意/キツネとタヌキの死体も感染リスクに要注意/感染防止面で心得るべきこと/ついには猫もやってきた/法獣医骨学の恐怖/可哀そうでも洗わないで!/過去からの叫び/猫と言えば鼠/家鼠と溺死/トガリネズミも体育館で遊ぶ?/クジラ類の死体までやってくる/知床のシャチ/蛇にもほんの少しの慈愛を
第6章 野生動物の法獣医学とは?
獣医学とは/既存知識の延長・目新しい組合せなので独習可能/愛護動物とは? 動愛法とは?/愛護動物を対象にした法獣医学の試み/その他飼育動物を対象にした試みと無脊椎動物医学/鳥獣保護管理法とは?/その他の野生動物を対象にした法規/では、野生動物を対象にした法獣医学は?/動物虐待阻止の実学シェルター医学と法獣医学/野生動物の法獣医学と医学(法医学)/野生動物の法獣医学と野生動物医学/シェルター医学の法獣医学との違い/狭義・広義の法獣医学
おわりに
参考文献
地人書館ホームページ
少年サンデーホームページ
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野生動物医学センター公式フェースブック
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類 医動物学ユニット/野生動物医学センター
2022年1月
『野生動物医学への挑戦―野生動物医学への挑戦―寄生虫・感染症・ワンヘルス』出版について
『野生動物医学への挑戦―野生動物医学への挑戦―寄生虫・感染症・ワンヘルス
(東京大学出版会, 2021年6月4日発売,A5版 196pp, 定価2900円+税)
皆さん、お元気でしょうか。コロナ禍の影響で、初級の研修が 2年間も中止となり、寂しいです。さて、その研修、特に、実習に参加された皆さんの多くから、「野生動物医学センターとはどのような活動をしているのか」という質問を頂きました。当日はバタバタしており、十分答えていなかったと思います。
その代わり、表題の拙著がその答えをしております。本書は「私は寄生虫学および寄生虫病学を専門にするが、その研究者人生の半ばで野生動物医学という別の学問を兼任(中略)感染症全般と関り、結局、野生動物医学が獣医学あるいは生物科学の中で、どのような位置付けにあるのかを模索しつつ、この分野を根付かせることに挑戦(後略)」(<はじめに>より)した記録です。その過程で、野生動物の救護や保護(意味が違います!)、この施設の活動の様子、関連分野で働く人々などに言及しましたた。自粛生活が続きますが、どうか、自習資料としてお読み下さればと思います。以下に章題とその節を列挙します。
第 1章 寄生虫はどこからきたか
1.1 寄生虫学事始め 1.2 研究の方向性を決める 1.3 宿主-寄生体関係の生物地理
第 2章 野生動物学を教える
2.1 獣医学領域の野生動物 2.2 野生動物医学とは 2.3 より高みを目指す野生動物医学のために
第 3章 野生動物に感染する
3.1 病原体と感染症 3.2 ウイルスによる疾病 3.3 細菌・真菌による疾病 3.4 野生動物の死因はなにか
第 4章 鳥類と寄生虫
4.1 鳥独特の寄生虫病 4.2 原虫・蠕虫による疾病 4.3 節足動物による疾病
第 5章 野生動物と病原体の曼荼羅
5.1 外来種介在によるいびつな関係 5.2 多様化する衛生動物 5.3 感染症研究の縦割りは世界を滅ぼす
第 6章 次世代へいかにバトンを渡すか
6.1 まず,働かないと…… 6.2 研究と啓発の両輪で 6.3 今後に望むこと
第 3章から 4章については、本協会の中級講座でも少し扱っています。救護活動では、いまや、感染症や寄生虫病を無視出来ませんからね。参考文献表も完備しており、もし、より深く独習を望む場合のサポートをしています。
東京大学出版会ホームページへ 外部サイト
ちなみに、本書表紙カバーは、それまでお堅い書籍を出していた東大さんらしからぬ漫画のようなタッチとなっています。思い出して頂けましたか。この室内の様子は、皆さんの実習で使われた野生動物医学センターの内部に着想されたものです。描いた作家は浅山わかびという『週刊少年サンデー・洗脳執事』などを連載した漫画作家で、実は、私の娘です。この子が生まれた 1994年に、私は野生動物医学の担当となったので、これも何かの縁なのでしょうか。
浅山わかび Twitter へ
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医学類医動物学ユニット/野生動物医学センター
2021年6月
動物看護学の最新解説が刊行されました
浅川はこの雑誌の副委員長で、しかも、2017年から3年間、動物看護学の学類に出向しているので、企画をしました。幸い、優れた著者陣に恵まれ素晴らしい内容となりました。
動物看護学系の大学は国内に9つあり(専修学校は70以上)、今、体系化された教育課程が準備されつつあります。また、動物看護学が独立した科学たり得るのは、固有な研究が包含されるからです。大学とは研究を基盤に教育をする場ですから、動物看護学は、飼い主や動物と関わる様々な人・社会と向き合う実践科学です。これが、病気で手一杯となっている獣医学と異なった、特色の一つと思います。実は、この側面は野生動物救護活動でも通ずるものがあります。この機会に、是非、ご注文下さい。
農文協『生物科学』ホームページへ
浅川満彦
酪農学園大学獣医学群獣医看護学類獣医寄生虫研究室
2018年4月